2008年2月3日日曜日

芥川漢字演習帳第4回

 【手巾】

 ●風馬牛の間柄(フウバギュウのあいだがら)

 「先生は、由来、芸術――殊に演劇とは、風馬牛の間柄である。」

 →互いに遠く離れていること。何の関係もないことのたとえ。《『風』は、獣のさかりがつくこと。(交尾期の牛や馬は相手を求めて遠くへ行くが、それもできないほどその土地が遠く隔たっていることから)》(成語林)、「風する馬牛も相及ばす」とも言うようです。出典は春秋左氏伝の「僖公四年」。原文はつまり、「演劇には全くの門外漢だ」ということですね。味わい深い表現ですなあ。

 ●簡勁(カンケイ)

 「――だから、先生はストリントベルクが、簡勁な筆で論評を加えて居る各種の演出法に対しても、先生自身の意見と云うものは、…」

 →言葉や文章が簡潔で力強いこと。「勁」は1級配当で、「つよ・い」と訓みます。「疾風勁草」(シップウケイソウ)で有名ですね。音符「ケイ」は「痙」「逕」「脛」「頸」「剄」「徑」とあります。

 ●《寄木》(モザイク)

 「何かの拍子で、朝鮮団扇が、先生の手をすべって、ぱたりと寄木の床の上に落ちた。」

 →寄木と書いてモザイクと読ませる宛字ですね。螺鈿のモザイクはお洒落かも。


 【母】

 ●没交渉(ボツコウショウ)

 「――男はそれらを見守りながら、現在の気もちとは没交渉に、一瞬間妻の美しさを感じた」

 →無関係。「ボッコウショウ」とも読みます。SEXのなくなった冷えた夫婦関係を表した言葉かもしれません。

 ●汪然(オウゼン)

 「――張り切った母の乳房の下から、汪然と湧いて来る得意の情は、どうする事も出来なかったのである。」

 →水が盛んに流れるさま。「汪」は1級配当で、「水が広がるさま」。「汪溢」=「横溢」や、「汪汪」などの熟語もあります。

 ●《水脈》(みお)

 「赤濁りに濁った長江の水に、眩い水脈を引いたなり、西か東へ去ったのであろう。」

 →熟字訓。川や海で舟が航行する道筋。水尾。水路。澪標(みおつくし)の澪(みお)。ちなみに「眩い」は「まばゆ・い」。


 【羅生門】

 ●《汗袗》(かざみ)

 「下人は、頸をちじめながら、山吹の汗袗に重ねた、紺の襖の肩を高くして門のまわりを見まわした。」

 →汗取りの単衣。熟字訓。「袗」(シン)は1級配当。目の細かい単衣のことです。もっとも、「かざみ」と言えば、漢字検定では《汗衫》(音読みは「カンサン」)の方が一般的かもしれません。「衫」(サン、セン)は1級配当で、こまごました下着のこと。ポルトガルから入ったもんぺみたいな「軽衫」(カルサン)もあります。

 ●眶(まぶた)

 「両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼玉が眶の外へ出そうになるほど、見開いて、啞のように執拗く黙っている。」

 →一般的には目蓋と書きます。あるいは「瞼」(1級配当)。眶は配当外で、「まぶち」とも訓むようです。目の上だけでなく外枠すべてを指します。ちなみに「執拗く」は宛字訓みで「しゅうね・く」。「啞」は「おし」。

 ●《疫病》(えやみ)

 「疫病にかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。」

 →宛字で、流行性の悪病。おこり。「えやみ」と言えば、「癘」「瘟」が1級配当ですが、少し艱しいか。「おこり」は、「疥」「瘧」とも書きます。


 【藪の中】

 ●賓頭盧(ビンズル)

 「昨年の秋鳥部寺の賓頭盧の後の山に、物詣でに来たらしい女房が一人、女の童と一しょに殺されていたのは、こいつの仕業だとか申し立て居りました。」

 →「釈迦仏の弟子。弟子中でも獅子吼(ししく)第一と称される。また十六羅漢の一人。漢訳では、賓度羅・跋羅闍、賓頭盧・突羅闍(とらじゃ)、賓頭盧・頗羅堕(はらだ)などとも音写し、名がピンドラ、姓をパラダージャである。名前の意味は、不動、利根という。パラダージャはバラモン十八姓の中の一つである。略称して賓頭盧(びんづる)尊者と呼ばれる」(ウィキ)。「撫で仏」とも言うようです。

 ●《小刀》(さすが)  

 「いつのまにか懐から出していたか、きらりと小刀を引き抜きました。」

 →熟字訓。さしがたな。刺刀。簡単な漢字ですが簡単には読めませんな。ちなみに、「さすが」と言えば、「流石」(漱石枕流から由来)、「遉」などがあり、結構試験には出ます。

 ●嗔恚(シンイ)

 「おれは中有に迷っていても、妻の返事を思い出すごとに、嗔恚に燃えなかったためしはない。」

 →激しい怒り。ともに1級配当。「嗔」は「瞋」とも書き、これも1級配当。口偏と目偏の違いです。一般的には「瞋恚」でしょう。いかりは「嗔り」「馮り」「愾り」「慍り」「悁り」「怫り」「忿り」「噁り」「嚇り」「瞋り」「恚り」「碇」。最後はギャグです。読めて書けるようにしましょう。

 ●杪(うら)

 「ただ杉や竹の杪に、寂しい日影が漂っている。」

 →「すえ」とも読みます。こずえ、木の先っぽのことです。1級配当。音読みは「ビョウ」。熟語に「杪春」(ビョウシュン)があります。この場合は「末」という意味で、遅い春、則ち3月弥生のことです。

2008年1月21日月曜日

芥川漢字演習帳第3回

 【桃太郎】

  ●《流蘇》(ふさ)

  「花は真紅の衣蓋に黄金の流蘇を垂らしたようである。」

 →房、総のこと。熟字訓。五彩の絲を雑へて旌旗(セイキ。 はた、のぼり、軍旗)、幕につけるふさ。ウィキには「色とりどりの羽毛、または絹糸を束ねて作られた房の飾りである(房のことを中国で は穂子 スイズという)。よく中国の舞台衣装に使われるスカートの下についている。 流蘇のデザインは流蘇樹の花の形から発想を得たとされる」とある。

 【湖南の扇】

 ●艫(へさき)

  「譚は若い船頭に命令を与える必要上、ボオトの艫に陣どっていた。」

 →船首。1級配当。「舳艫千里」(ジクロセンリ)という四字熟語がありますが、この場合、「舳」は船首、「艫」は船尾。今回とは逆になります。船尾は「とも」。文脈を読めば、命令するのですから船首となるでしょう。日中で意味が逆になるという説もあり注意が必要です。

 ●蝗(いなご)

 「それは実際人間よりも、蝗に近い早業だった。」

 →1級配当。《飛蝗》は「ばった」。

 ●話頭を一転する(ワトウ)

 「ちょっと真面目になったと思うと、無造作に話頭を一転した。」

 →話題を変えること。閑話休題ですね。

 ●倉皇(ソウコウ)

 「殆ど仇にでも遇ったように倉皇と僕にオペラ・グラスを渡した。」

 →あわてて。「蒼惶」の書き換えですね。よく出ます。

 ●宛囀(エンテン)

 「片手を彼の膝の上に置き、宛囀と何かしゃべり出した。」

 →よどみなく調子のよいこと。宛転とも書きます。「囀」は「さえずる」こと。つくりは艱しく、「くちぐるま、じゅうたむすん」と我流で覚えました。有名な古諺に「勧学院の雀は蒙求を囀る」があります。意味は「門前の小僧習わぬ経を誦む」。

 〔オマケ〕

 この作品は舞台が湖南省です。中国語がいくつか出てきましたので羅列しておきます。
 ▼苦力(クウリイ)=人夫
 ▼大掛児(タアクアル)=足首まで長い単の上着。中国服。
 ▼鴇婦(ポオプウ)=遊女の世話をする老女。
 ▼是了(シイラ)=OK、YES
 ▼這箇(チイコ)=それで、その


 【点鬼簿】

 ●点鬼簿(テンキボ)

 「僕の『点鬼簿』に加えたいのは勿論この姉のことではない。」

 →死者の姓名を記した帳面。過去帳。「死ぬ」という慣用句の「鬼籍に入る」は、閻魔大王の閻魔帳に名前が記されること。

 ●垂死(スイシ)

 「垂死の僕の父を残したまま、築地のある待合へ出かけて行った。」

 →今にも死にそうなこと。類義語は「瀕死」「危篤」。「垂とする」は表外読みで「なんなん・とする」。「今にも~しそう」という意味です。「百歳に垂とする老人」「観客は5万人に垂とする」のように使います。

 【枯野抄】

 ●扞格(カンカク)

 「…この満足と悔恨の扞格から、自然とある程度の掣肘を感じ出した。」

 →矛盾。撞着。「扞」は1級配当。訓読みは「ふせ・ぐ」「おか・す」とも。「扞」も「格」も意味は「こばむ」です。簡単な字ですが、なかなか馴染みが薄い言葉です。しっかり覚えましょう。異体字で「捍格」とも書きます。有名な故事成語に「白刃(ハクジン)胸を扞(おか)せば則ち目流矢(リュウシ)を見ず」(大きな困難に出会ったときには、小さな問題にかかわっていられないこと)があります。出典は「荀子」の「彊国」。ちなみに「掣肘」は「セイチュウ」で、横槍、邪魔の意味。

 ●哄笑(コウショウ)

 「それはまるで腹の底からこみ上げて来る哄笑が、喉と唇とに堰かれながら、しかもなお可笑しさに堪え兼ねて、ちぎれちぎれに鼻の孔から、迸って来るような声であった。」

 →どっと笑うこと。大笑い。一人では出来ない笑いです。「哄」は1級配当。笑いの種類には、「嗤笑」(シショウ)、「哂笑」(シンショウ)は嘲り笑うこと(嘲笑)もあります。いずれも読みに注意の1級漢字です。

 ●歔欷(キョキ)

 「が、この時歔欷するらしいけはいを洩らしたのは、独り乙州ばかりではない。」

 →啜り泣き。いずれも1級配当。それぞれ一字で「欷き、歔き」とも訓みます。口偏で「噓唏」とも書きます。音符からキョキと読めると思いますが、本番では書けなければいけません。よくでます。

 ●横風に構える(オウフウ)

 「彼はいつもの通り浅黒い顔に、いつも妙に横風に構えながら、無造作に師匠の唇へ水を塗った。」

 →偉そうに人を見くだす態度をとること。類義語に「不遜」「 倨傲」(キョゴウ)「 傍若無人」「 傲倨」「 傲岸」「 傲岸不遜」(ゴウガンフソン)「 傲岸無礼」「傲慢」「 尊大」「強慢」「 権高」(ケンコウ)「 横柄」(オウヘイ)「気位」「自惚れ」「驕傲」(キョウゴウ)「驕慢」などがあり、すべて読めて書けるようにしましょう。

 ●素懐(ソカイ)

 「こう云う美しい蒲団の上で、往生の素懐を遂げる事が出来るのは、何よりも悦ばしい」

 →平素の願い。かねての志。特に仏教で、極楽往生や出家を願うこと。類義語は「宿願」「宿望」「素子」「宿志」「素意」。

 ●弾指の間に迫る(ダンシのカン)

 「芭蕉の断末魔もすでにもう、弾指の間に迫ったのであろう。」

 →わずかの間に迫る。すぐそこまで来ていること。「弾指」は「ダンジ」とも読み、「本来、仏教でいう時間の最小単位で、一つの意識の起こる時間」。正法眼蔵に「一弾指の間に六十五の刹那ありて」と見える。一説に「1弾指=0.85秒、1刹那=0.01333秒、あるいは1刹那=1/75秒」とか。
 きわめて短い時間を表す言葉はたくさんあります。「露の間」」(つゆのま) 「寸陰」 (すんいん) 「刹那」」(せつな)。

 ●■□逡巡(シソシュンジュン)

 「それならば――ああ、誰かに徒に■□逡巡して、己を欺くの愚を敢てしよう。」

 →ためらうこと。■は「足偏+咨」(JIS第4水準8941)。□は「足偏+且」(JIS第4水準8928)。いずれも1級配当外のとても難しい漢字です。意味は「とどこおること」「ゆきなやむこと」。四字熟語では「狐疑逡巡」を覚えておけばいいのですが、遉は芥川です、とても素晴しい語彙です。

 ●桎梏(シッコク)

 「久しく芭蕉の人格的圧力の桎梏に、空しく屈していた彼の自由な精神が、その本来の力をもって、ようやく手足を伸ばそうとする、解放の喜びだったのである。」

 →自由を束縛して邪魔だてすること。いずれも1級配当。この「桎梏」という熟語のみで使います。ちなみに「桎」は「あしかせ」、「梏」は「てかせ」。

 ●溘然(コウゼン)、属纊に就く(ショクコウ、ショッコウ)

 「こうして、古今に倫を絶した俳諧の大宗匠、芭蕉庵松尾桃青、『悲歎かぎりなき』門弟たちに囲まれたまま、溘然として属纊に就いたのである。」

 →たちまち、突然。死ぬときに使います。「溘焉」とも言います。1級配当。読みでも書きでも出そう。
 →臨終のこと。とても艱しい言葉です。初めて見ました。辞書で銓べても載っていません。サイト検索で、「人の臨終の時、綿をもって属鼻穴を纊す。息の絶を知る。故に臨終と呼(ヨバ)して属纊といふ」「死にかかった人の口に纊をあてて、呼吸の有無をみることをいふ」というのがみつかりましたので、そのまま載せておきます。「纊(わた)を屬(つ)く」というのもありました。「臨終の前の危篤状態」のことで、「纊(こう)」は「わた(綿)」。1級配当漢字です。「むかしの中国の「礼」で、人が臨終するとき、綿を口に近づけ、息をしているかどうか確かめたことから」とありました。あまり問題で見たことはありません。流石は博識の芥川ですな。

2008年1月11日金曜日

芥川漢字演習帳第2回

【鼠小僧次郎吉】

 ●平ぐけ(ひらぐけ)

 「…形のごとく結城の単衣物に、八反の平ぐけを締めたのが、…」
 →平絎け。帯の種類で、「丸絎け」が対義語。「絎縫い」(くけぬ・い)の「絎」(くけ)です。1級配当漢字です。

 ●《剳青》(ほりもの)

 「手首まで彫ってある剳青が目立つせいか、糊の落ちた小弁慶の単衣物に算盤珠の三尺をぐるぐる巻きつけたのも、…」
 →入れ墨の事ですね。熟字訓ながら「剳」は配当外。「箚」(「駐箚」がよく出る)と似ているので異体字と見ることもできましょうか。こちらも《箚青》と書いて「ほりもの」、「いれずみ」、音読みで「サッセイ」。入れ墨は、「黥」「刺青」「文身」とも書きます。「黥」は1級配当。「ゲイ」とも読み、ファッションではなく刑罰の一種。

 ●微醺(ビクン)

 「時たまここに流れて来るそよ風も、微醺を帯びた二人の男には、刷毛先を少し…」
  →ほろよい。一字で「醺い」(ほろよ・い)。音符は、燻製(薫製)の「燻(熏)」(クン)と同じ。燻す(いぶ・す)、燻らすくゆ・らす、燻ぶる(くす・ぶる)、燻べる(ふす・べる)。「葷酒山門」(クンシュサンモン、寺院内に入れてはならないもの)の「葷」とはちょっと違う。こちらは蒜、薤、辣韮など臭いがきつい野菜のこと。

 ●陰徳(イントク)

 「悪党冥利にこのくれえな陰徳は積んで置きてえとね、…」
 →人知れず行う恩徳。〔陰徳あれば陽報あり〕(成語林から)=陰で善い事を行う者には、必ず表に現れたよい報いがあるということ。出典は「淮南子」。

 ●極月(ごくげつ)

 「忘れもし無え、極月の十一日、四谷の荒木町を振り出しに、…」
 →師走。年の極まる月で、十二月ですね。

 ●鶸(ひわ)

 「その桑の枝を掴んだ鶸も、寒さに咽喉を痛めたのか、…」
 →アトリ科の小鳥の総称。スズメより小さい。季語は秋。熟字訓では《金翅雀》と書く。「鶸色」(ひわいろ)は、黄色の強い萌葱色。

 ●〔胡麻の蠅〕(ごまのはえ)

 「あのでれ助が胡麻の蠅とは、こいつはちいと出来すぎたわい。…」
 →旅人を脅したり、騙したりして金品を巻き上げる者。〔護摩の灰〕(ごまのはい)が元々の言い方で、成語林によると、「弘法大師の行った護摩の灰と称して押し売りをした者がいたことから」。転じて「胡麻の上にたかる蠅は見分けがつきにくいところから、蠅が物にたかる連想から」。

 ●すんでの事

 「―と思ったら、すんでの事に、おれは吹き出す所だったが、その胡麻の蠅と今が今まで、いっしょに酒を飲んでいたと思や、…」  →もう少しのところで。あわや。漢字で書くと表外読みで「既の事」。

【煙管】

 ●《煙管》(キセル)

 「前田斉広は、参覲中、江戸城の本丸へ登城する毎に、必ず愛用の煙管を持って行った。」
 →熟字訓。きざみタバコをつめ、火をつけて吸う道具。

 ●増長慢(ゾウチョウマン)

 「…人に見せびらかすほど、増長慢な性質のものではなかったかも知れない。」
 →つけあがって高慢になること。「増上慢」(ゾウジョウマン)、「増上天」(ゾウジョウテン)とも云います。自信過剰ですね。

 ●寛濶(カンカツ)

 「煙管をはたきながら、寛濶に声をかけた。」
 →心がおおらかで、ゆったりしていること。「濶」は心がひろいこと。1級配当。訓読みは「ひろ・い」。「闊」の異体字です。こちらの形が一般的でしょう。「自由闊達」「闊達自在」「闊歩」「横行闊歩」「久闊を叙する」「迂闊」「疎闊」などよく出ます。基本中の基本漢字でしょう。

 ●賀節朔望(ガセツサクボウ)

 「が、賀節朔望二十八日の登城の度に、必ず、それを一本ずつ坊主たちにとられるとなると、…」  →大名は、賀節、則ち慶事、祝賀の折と、参府や帰国の時、月々の一日と十五日に江戸城に登って将軍に拝謁した。朔望は月の盈ち虧けで陰暦の一日と十五日のことです。

 ●八朔(ハッサク)

 「ことに、了哲が、八朔の登城の節か何かに、一本貰って、嬉しがっていた時なぞは、…」
 →旧暦八月一日のこと。「朔」は「ついたち」。「徳川家康が天正18年8月1日(グレゴリオ暦1590年8月30日)に初めて公式に江戸城に入城したとされることから、江戸幕府はこの日を正月に次ぐ祝日としていた」(ウィキペ)

 ●遺誡(イカイ)

 「金無垢の煙管に懲りた斉広が、子孫に遺誡でも垂れた結果かも知れない」
 →後人のために貽した訓戒。「遺戒」が書き換え。誡は「いましめる」。「箴め」「鐫め」「撕め」「飭め」「戒め」「警め」。さまざまな「イマシメ」があります。すべて覚えましょう。どれも出ます。「箴言」「戒飭」「提撕」「鐫録」「警句」などいずれも熟語としても覚えましょう。
 
【将軍】

 ●烱眼(ケイガン)

 「『軍司令官閣下の烱眼には驚きました』」
 →眼力の鋭いこと。慧眼の方が一般的でしょう。「烱」(ケイ)は1級配当。「炯」の異体字。訓読みは「あき・らか」。「眼光炯炯」「炯然」=目つきが鋭いさま。同じ音符は「迥」。こちらは「はる・か」。是非とも読めるようにしておきましょう。「迥然」(けいぜん)=迥かなさま、「迥出」(けいしゅつ)=抜きん出ていること。

 ●浩歎(コウタン)

 「…大仰に天を仰ぎながら、長々と浩歎の独白を述べた。」
 →大いに嘆くこと。深いため息。「歎」は「嘆」の書き換え。「浩」は孟子で有名な「浩然の気」で「ひろい」。「なげく」もいっぱい存ります。「欷く」「慟く」「慷く」「愾く」「嗟く」「嗚く」「喟く」「唏く」「咨く」「吁く」「慨く」。もちろん書き取りが出たら「嘆く」でOKで、(書き取り問題では出ないでしょうが)、読めるようにはしておかないといけません。そして、それぞれ熟語が存ります。これらは書けるようにしなければなりません。「欷歔」「唏嘘」「慟哭」「慷慨」「愾然」「咨嗟」「嗚噎」「喟然」(キゼン)「嗟吁」(ああ)「嗟嘆」「慨然」などなど。意味はすべて「なげくこと」「ため息」。

 ●《榲桲》(マルメロ)

 「『また榲桲が落ちなければ好いが、…』」
 →熟字訓。和名は、ポルトガル語の marmelo から。音読みは「オツボツ」。いずれも1級配当外。《榠櫨》とも書きます。(1級配当外、ベイロ)。「バラ科Cydonia属の唯一の種。西アジア、コーカサス地域原産の落葉高木。カリンやボケに近縁な果樹。リンゴや西洋ナシとも比較的縁が近い。果実は偽果で、熟した果実は明るい黄橙色で洋梨形。果実は芳香があるが強い酸味があり、硬い繊維質と石細胞のため生食はできないが、カリン酒とほぼ同じ分量で果実酒が作れる。成熟果の表面には軟毛が少し残っている場合があるので、よく落としてから切って漬け込む。カリン酒に似た、香りの良い果実酒ができる」(ウィキペ要約)。

2007年12月28日金曜日

芥川龍之介で漢字勉彊

 過日漢字検定1級を合格しました。171点でした。初挑戦での一発合格でしたが、此れで満足はしていません。次回も受けるかどうかは微妙ですが勉彊は継続です。検定は単なる手段ですから。

 さて、芥川龍之介の全小説がまるごと一冊になっている「ザ・龍之介」を購入して、彼の作品を一から読み直し剏めました。懐かしいのが多いです。そして、とてもためになる、身になる語彙や漢字が目白押しであることに気がつきました。

 しばらくは龍之介で漢字の勉彊をしようと思います。

 気になったことばや検定で役に立ちそうなものを日記に書きとめておこうと思います。

【芋粥】

 ●品隲(ヒンシツ)

 「…烏帽子と水干とを、品隲して飽きる事を知らなかった。」→品定め、品評。「騭」(「阜+歩」の下に馬)であるならば1級配当漢字なのですが、芋粥の漢字は「隲」(「阜偏」に「少」の下に「馬」)と微妙に異なり、配当外です。もしかしたら異体字かもしれません。「チョク」とも読んで、意味は「さだめる」とか「おすうま」。些し艱しいですね。

 ●《楚割》(すわやり)

 「…、近江の鮒、鯛の楚割、鮭の内子、…」→魚肉を細かく割いて乾かしたもの。熟字訓。《魚条》とも書きますね。食物系はことばの宝庫です。

 ●《行縢》(むかばき)

 「某と云う侍学生が、行縢の片皮へ、両足を入れて馬に乗ろうと…」→鹿・熊、虎などの毛皮でつくり、腰から脚にかけておおいとしたもの。元々鷹飼いが使ったが、平安末期には武士が狩猟や遠行にあたり騎馬の際に着用した。歴史の勉彊にもなります。熟字訓です。これは熟字訓問題で出そう。

 ●「潺湲」(センカン)

 「白けた河原の石の間、潺湲たる水の辺に立枯れている蓬の葉を、…」→水が流れるさま。これは1級受検者にとっては基本中の基本ですね。「湲」は「エン」とも読みますが、一般的には「カン」でしょう。耳慣れれば迚味わい深いことばだと思います。「潺」は読むのが艱しい。

 ●「的皪」(テキレキ)

 「その鞭の下には、的皪として、午後の日を受けた近江の湖が…」 →白くあざやかに光り輝くさま。これは配当外。祖めて見ました。「皪」は音符(礫、轢など)から読みは容易。意味も文から琵琶湖の燿きですね。とてもきれいなことばです。

 ●罩める(こ・める)

 「灰色のものが罩めた中で、赤いのは、烈々と燃え上がる釜の…」→込める、籠める。「こめる」では普通は用いない漢字ですが明治の文豪の作品には能く出て来ます。音読みは「トウ」。魚を捉る「たけかご」のことですね。「四」(あみがしら)から何となく類推可能か。「罧」(ふしづけ)もありますね。

【鼻】

 ●震旦(シンタン)

 「内供は、震旦の話の序に蜀漢の劉玄徳の耳が長かったと云う事を聞いた時に、それが鼻だったら、…」 →中国の異称。振旦、真丹ともいう。

  ●《鑷子》(けぬき)

 「…不承不承に弟子の僧が、鼻の毛穴から鑷子で脂をとるのを眺めていた。」 →熟字訓。毛抜きのこと。今で云う「ピンセット」。音読みは「ジョウシ」。「鑷」は1級配当。音符「聶」は「ショウ」と「ジョウ」の二つが存ります。読み分けが難しいかも。「ジョウ」は「鑷」(之れ一字で「けぬき」)「顳」(顳顬=こめかみ)「躡」(ふむ、躡足附耳)「囁」(ささやく)、「ショウ」は「聶」「懾」(おそれる)「囁」(ささやく)「顳」。

【魔術】

  ●荒肝を挫ぐ(あらぎもをひしぐ)

 「私を囲んでいた友人たちは、これだけでも、もう荒肝を挫がれたのでしょう。」 →度肝を抜く。ひどく駭かせる。「荒肝」は「きもだま」「Guts」のこと。つぶす意味の「ひしぐ」は通常「拉ぐ」(拉致の拉)ですから、「挫ぐ」は少々当て字っぽいですが、宮本武蔵の五輪書に用例が見つかります。こちらは通常、「くじく」ですね。  漱石の「坊ちゃん」と中里介山の「大菩薩峠」に同じ表現が見つかりました。

【文章】

 ●頓死(トンシ)

 「保吉はきのうずる休みをしたため、本多少佐の頓死を伝えた通告書を見ずにしまったのである。」 →急死のこと。類義語で「急逝」(キュウセイ)。頓は準1級配当で「とみに」。意味は違いますが、「頓服」(トンプク)も覚えておきたい。「薬を必要なときに飲む意味」で対義語は「分服」(ブンプク)。

  ●慓悍(ヒョウカン)

 「やはり禿げ鷹に似た顔はすっかり頭の白いだけに、令息よりも一層慓悍である。」 →動作が素早く気性がきつくて強いこと。「剽悍」とも書きます。いずれも1級配当漢字。基本でしょう。

【お富の貞操】

  ●香箱をつくる(コウバコ)

 「…台所の隈の蚫貝の前に大きい牡の三毛猫が一匹静かに香箱をつくっていた。」 →猫が姿勢を低く座り、かつ前足を内側に折り曲げて足先を隠しているさま。「香箱を組む」「香箱座り」とも云うようです。これはおもしろい表現です。初めて見ました。猫マニアではごく一般的な表現のようです。漢検では出ないでしょうが、ぜひとも覚えたいことば。ネット検索で写真を見ましたがとても可愛らしく吹き出してしまいました。猫のそうした態が「香箱」(お香を入れる化粧箱、直方体か?)のように見えるからのようですが、まさに云い得て妙。そういえばエジプトの「獅子女(スフィンクス)」もまさに香箱を作った態ですね。あ、でも足先は隠していないか。

 ●讒訴(ザンソ)

 「『お黙りよ!お上さんの讒訴なぞは聞きたくないよ!』」 →かげぐちのこと。「讒」は1級配当漢字。覚えるのは難しいですが、よく出ますね。つくりの音符は、わたしは「ク・ロ・ヒ(比)・メン(免)・テン(、)」と覚えました。讒訴といえば通常、人を陥れる「讒言」のことを言います。菅原道真ですね。今回はもう少し軽い意味です。