2008年1月11日金曜日

芥川漢字演習帳第2回

【鼠小僧次郎吉】

 ●平ぐけ(ひらぐけ)

 「…形のごとく結城の単衣物に、八反の平ぐけを締めたのが、…」
 →平絎け。帯の種類で、「丸絎け」が対義語。「絎縫い」(くけぬ・い)の「絎」(くけ)です。1級配当漢字です。

 ●《剳青》(ほりもの)

 「手首まで彫ってある剳青が目立つせいか、糊の落ちた小弁慶の単衣物に算盤珠の三尺をぐるぐる巻きつけたのも、…」
 →入れ墨の事ですね。熟字訓ながら「剳」は配当外。「箚」(「駐箚」がよく出る)と似ているので異体字と見ることもできましょうか。こちらも《箚青》と書いて「ほりもの」、「いれずみ」、音読みで「サッセイ」。入れ墨は、「黥」「刺青」「文身」とも書きます。「黥」は1級配当。「ゲイ」とも読み、ファッションではなく刑罰の一種。

 ●微醺(ビクン)

 「時たまここに流れて来るそよ風も、微醺を帯びた二人の男には、刷毛先を少し…」
  →ほろよい。一字で「醺い」(ほろよ・い)。音符は、燻製(薫製)の「燻(熏)」(クン)と同じ。燻す(いぶ・す)、燻らすくゆ・らす、燻ぶる(くす・ぶる)、燻べる(ふす・べる)。「葷酒山門」(クンシュサンモン、寺院内に入れてはならないもの)の「葷」とはちょっと違う。こちらは蒜、薤、辣韮など臭いがきつい野菜のこと。

 ●陰徳(イントク)

 「悪党冥利にこのくれえな陰徳は積んで置きてえとね、…」
 →人知れず行う恩徳。〔陰徳あれば陽報あり〕(成語林から)=陰で善い事を行う者には、必ず表に現れたよい報いがあるということ。出典は「淮南子」。

 ●極月(ごくげつ)

 「忘れもし無え、極月の十一日、四谷の荒木町を振り出しに、…」
 →師走。年の極まる月で、十二月ですね。

 ●鶸(ひわ)

 「その桑の枝を掴んだ鶸も、寒さに咽喉を痛めたのか、…」
 →アトリ科の小鳥の総称。スズメより小さい。季語は秋。熟字訓では《金翅雀》と書く。「鶸色」(ひわいろ)は、黄色の強い萌葱色。

 ●〔胡麻の蠅〕(ごまのはえ)

 「あのでれ助が胡麻の蠅とは、こいつはちいと出来すぎたわい。…」
 →旅人を脅したり、騙したりして金品を巻き上げる者。〔護摩の灰〕(ごまのはい)が元々の言い方で、成語林によると、「弘法大師の行った護摩の灰と称して押し売りをした者がいたことから」。転じて「胡麻の上にたかる蠅は見分けがつきにくいところから、蠅が物にたかる連想から」。

 ●すんでの事

 「―と思ったら、すんでの事に、おれは吹き出す所だったが、その胡麻の蠅と今が今まで、いっしょに酒を飲んでいたと思や、…」  →もう少しのところで。あわや。漢字で書くと表外読みで「既の事」。

【煙管】

 ●《煙管》(キセル)

 「前田斉広は、参覲中、江戸城の本丸へ登城する毎に、必ず愛用の煙管を持って行った。」
 →熟字訓。きざみタバコをつめ、火をつけて吸う道具。

 ●増長慢(ゾウチョウマン)

 「…人に見せびらかすほど、増長慢な性質のものではなかったかも知れない。」
 →つけあがって高慢になること。「増上慢」(ゾウジョウマン)、「増上天」(ゾウジョウテン)とも云います。自信過剰ですね。

 ●寛濶(カンカツ)

 「煙管をはたきながら、寛濶に声をかけた。」
 →心がおおらかで、ゆったりしていること。「濶」は心がひろいこと。1級配当。訓読みは「ひろ・い」。「闊」の異体字です。こちらの形が一般的でしょう。「自由闊達」「闊達自在」「闊歩」「横行闊歩」「久闊を叙する」「迂闊」「疎闊」などよく出ます。基本中の基本漢字でしょう。

 ●賀節朔望(ガセツサクボウ)

 「が、賀節朔望二十八日の登城の度に、必ず、それを一本ずつ坊主たちにとられるとなると、…」  →大名は、賀節、則ち慶事、祝賀の折と、参府や帰国の時、月々の一日と十五日に江戸城に登って将軍に拝謁した。朔望は月の盈ち虧けで陰暦の一日と十五日のことです。

 ●八朔(ハッサク)

 「ことに、了哲が、八朔の登城の節か何かに、一本貰って、嬉しがっていた時なぞは、…」
 →旧暦八月一日のこと。「朔」は「ついたち」。「徳川家康が天正18年8月1日(グレゴリオ暦1590年8月30日)に初めて公式に江戸城に入城したとされることから、江戸幕府はこの日を正月に次ぐ祝日としていた」(ウィキペ)

 ●遺誡(イカイ)

 「金無垢の煙管に懲りた斉広が、子孫に遺誡でも垂れた結果かも知れない」
 →後人のために貽した訓戒。「遺戒」が書き換え。誡は「いましめる」。「箴め」「鐫め」「撕め」「飭め」「戒め」「警め」。さまざまな「イマシメ」があります。すべて覚えましょう。どれも出ます。「箴言」「戒飭」「提撕」「鐫録」「警句」などいずれも熟語としても覚えましょう。
 
【将軍】

 ●烱眼(ケイガン)

 「『軍司令官閣下の烱眼には驚きました』」
 →眼力の鋭いこと。慧眼の方が一般的でしょう。「烱」(ケイ)は1級配当。「炯」の異体字。訓読みは「あき・らか」。「眼光炯炯」「炯然」=目つきが鋭いさま。同じ音符は「迥」。こちらは「はる・か」。是非とも読めるようにしておきましょう。「迥然」(けいぜん)=迥かなさま、「迥出」(けいしゅつ)=抜きん出ていること。

 ●浩歎(コウタン)

 「…大仰に天を仰ぎながら、長々と浩歎の独白を述べた。」
 →大いに嘆くこと。深いため息。「歎」は「嘆」の書き換え。「浩」は孟子で有名な「浩然の気」で「ひろい」。「なげく」もいっぱい存ります。「欷く」「慟く」「慷く」「愾く」「嗟く」「嗚く」「喟く」「唏く」「咨く」「吁く」「慨く」。もちろん書き取りが出たら「嘆く」でOKで、(書き取り問題では出ないでしょうが)、読めるようにはしておかないといけません。そして、それぞれ熟語が存ります。これらは書けるようにしなければなりません。「欷歔」「唏嘘」「慟哭」「慷慨」「愾然」「咨嗟」「嗚噎」「喟然」(キゼン)「嗟吁」(ああ)「嗟嘆」「慨然」などなど。意味はすべて「なげくこと」「ため息」。

 ●《榲桲》(マルメロ)

 「『また榲桲が落ちなければ好いが、…』」
 →熟字訓。和名は、ポルトガル語の marmelo から。音読みは「オツボツ」。いずれも1級配当外。《榠櫨》とも書きます。(1級配当外、ベイロ)。「バラ科Cydonia属の唯一の種。西アジア、コーカサス地域原産の落葉高木。カリンやボケに近縁な果樹。リンゴや西洋ナシとも比較的縁が近い。果実は偽果で、熟した果実は明るい黄橙色で洋梨形。果実は芳香があるが強い酸味があり、硬い繊維質と石細胞のため生食はできないが、カリン酒とほぼ同じ分量で果実酒が作れる。成熟果の表面には軟毛が少し残っている場合があるので、よく落としてから切って漬け込む。カリン酒に似た、香りの良い果実酒ができる」(ウィキペ要約)。

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