2007年12月28日金曜日

芥川龍之介で漢字勉彊

 過日漢字検定1級を合格しました。171点でした。初挑戦での一発合格でしたが、此れで満足はしていません。次回も受けるかどうかは微妙ですが勉彊は継続です。検定は単なる手段ですから。

 さて、芥川龍之介の全小説がまるごと一冊になっている「ザ・龍之介」を購入して、彼の作品を一から読み直し剏めました。懐かしいのが多いです。そして、とてもためになる、身になる語彙や漢字が目白押しであることに気がつきました。

 しばらくは龍之介で漢字の勉彊をしようと思います。

 気になったことばや検定で役に立ちそうなものを日記に書きとめておこうと思います。

【芋粥】

 ●品隲(ヒンシツ)

 「…烏帽子と水干とを、品隲して飽きる事を知らなかった。」→品定め、品評。「騭」(「阜+歩」の下に馬)であるならば1級配当漢字なのですが、芋粥の漢字は「隲」(「阜偏」に「少」の下に「馬」)と微妙に異なり、配当外です。もしかしたら異体字かもしれません。「チョク」とも読んで、意味は「さだめる」とか「おすうま」。些し艱しいですね。

 ●《楚割》(すわやり)

 「…、近江の鮒、鯛の楚割、鮭の内子、…」→魚肉を細かく割いて乾かしたもの。熟字訓。《魚条》とも書きますね。食物系はことばの宝庫です。

 ●《行縢》(むかばき)

 「某と云う侍学生が、行縢の片皮へ、両足を入れて馬に乗ろうと…」→鹿・熊、虎などの毛皮でつくり、腰から脚にかけておおいとしたもの。元々鷹飼いが使ったが、平安末期には武士が狩猟や遠行にあたり騎馬の際に着用した。歴史の勉彊にもなります。熟字訓です。これは熟字訓問題で出そう。

 ●「潺湲」(センカン)

 「白けた河原の石の間、潺湲たる水の辺に立枯れている蓬の葉を、…」→水が流れるさま。これは1級受検者にとっては基本中の基本ですね。「湲」は「エン」とも読みますが、一般的には「カン」でしょう。耳慣れれば迚味わい深いことばだと思います。「潺」は読むのが艱しい。

 ●「的皪」(テキレキ)

 「その鞭の下には、的皪として、午後の日を受けた近江の湖が…」 →白くあざやかに光り輝くさま。これは配当外。祖めて見ました。「皪」は音符(礫、轢など)から読みは容易。意味も文から琵琶湖の燿きですね。とてもきれいなことばです。

 ●罩める(こ・める)

 「灰色のものが罩めた中で、赤いのは、烈々と燃え上がる釜の…」→込める、籠める。「こめる」では普通は用いない漢字ですが明治の文豪の作品には能く出て来ます。音読みは「トウ」。魚を捉る「たけかご」のことですね。「四」(あみがしら)から何となく類推可能か。「罧」(ふしづけ)もありますね。

【鼻】

 ●震旦(シンタン)

 「内供は、震旦の話の序に蜀漢の劉玄徳の耳が長かったと云う事を聞いた時に、それが鼻だったら、…」 →中国の異称。振旦、真丹ともいう。

  ●《鑷子》(けぬき)

 「…不承不承に弟子の僧が、鼻の毛穴から鑷子で脂をとるのを眺めていた。」 →熟字訓。毛抜きのこと。今で云う「ピンセット」。音読みは「ジョウシ」。「鑷」は1級配当。音符「聶」は「ショウ」と「ジョウ」の二つが存ります。読み分けが難しいかも。「ジョウ」は「鑷」(之れ一字で「けぬき」)「顳」(顳顬=こめかみ)「躡」(ふむ、躡足附耳)「囁」(ささやく)、「ショウ」は「聶」「懾」(おそれる)「囁」(ささやく)「顳」。

【魔術】

  ●荒肝を挫ぐ(あらぎもをひしぐ)

 「私を囲んでいた友人たちは、これだけでも、もう荒肝を挫がれたのでしょう。」 →度肝を抜く。ひどく駭かせる。「荒肝」は「きもだま」「Guts」のこと。つぶす意味の「ひしぐ」は通常「拉ぐ」(拉致の拉)ですから、「挫ぐ」は少々当て字っぽいですが、宮本武蔵の五輪書に用例が見つかります。こちらは通常、「くじく」ですね。  漱石の「坊ちゃん」と中里介山の「大菩薩峠」に同じ表現が見つかりました。

【文章】

 ●頓死(トンシ)

 「保吉はきのうずる休みをしたため、本多少佐の頓死を伝えた通告書を見ずにしまったのである。」 →急死のこと。類義語で「急逝」(キュウセイ)。頓は準1級配当で「とみに」。意味は違いますが、「頓服」(トンプク)も覚えておきたい。「薬を必要なときに飲む意味」で対義語は「分服」(ブンプク)。

  ●慓悍(ヒョウカン)

 「やはり禿げ鷹に似た顔はすっかり頭の白いだけに、令息よりも一層慓悍である。」 →動作が素早く気性がきつくて強いこと。「剽悍」とも書きます。いずれも1級配当漢字。基本でしょう。

【お富の貞操】

  ●香箱をつくる(コウバコ)

 「…台所の隈の蚫貝の前に大きい牡の三毛猫が一匹静かに香箱をつくっていた。」 →猫が姿勢を低く座り、かつ前足を内側に折り曲げて足先を隠しているさま。「香箱を組む」「香箱座り」とも云うようです。これはおもしろい表現です。初めて見ました。猫マニアではごく一般的な表現のようです。漢検では出ないでしょうが、ぜひとも覚えたいことば。ネット検索で写真を見ましたがとても可愛らしく吹き出してしまいました。猫のそうした態が「香箱」(お香を入れる化粧箱、直方体か?)のように見えるからのようですが、まさに云い得て妙。そういえばエジプトの「獅子女(スフィンクス)」もまさに香箱を作った態ですね。あ、でも足先は隠していないか。

 ●讒訴(ザンソ)

 「『お黙りよ!お上さんの讒訴なぞは聞きたくないよ!』」 →かげぐちのこと。「讒」は1級配当漢字。覚えるのは難しいですが、よく出ますね。つくりの音符は、わたしは「ク・ロ・ヒ(比)・メン(免)・テン(、)」と覚えました。讒訴といえば通常、人を陥れる「讒言」のことを言います。菅原道真ですね。今回はもう少し軽い意味です。

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